2013年5月16日木曜日

信託財産責任負担債務と限定責任信託(信託実務3級)

以前「限定責任信託と責任財産限定特約の関係」と題してブログを書きましたが、今回はそれに微妙に関連する内容です。具体的には信託財産責任負担債務についてのお話です。自分で書きながら頭がふらふらしてきます。長い漢字は覚えにくい(汗) 説明は後述することにして、とりあえず簡単に並べてみましょう。

信託財産責任負担債務 ⇒ 信託された財産がまずは負担すべき債務

限定責任信託 ⇒ 信託された財産に関する債務は、信託された財産だけが負担する約束

つまり、信託財産責任負担債務は、信託法で定められた信託の債務です。それに対して、限定責任信託というのは、信託に関する契約の一種です。ここで押さえておくべきことは、繰り返しになりますが、いったい誰が(何が)債務に対して責任を負うのかということです。

信託財産責任負担債務は「受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務(信託法第2条9項)」と定められ、信託法第21条で詳細が説明されています。その第1項では基本的には信託財産が債務に対して責任を持つものを示し、第2項では信託財産だけが債務に対して責任を持つものを示しています。

第1項に挙げられたものは「受益債権(1号)」「信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利(2号)」なんかがありますが、個人的に驚いたのは「受託者が信託事務を処理するについてした不法行為によって生じた権利(8号)」のところ。要するに預けたお金で勝手に悪さされたら、そのお金で債務が払われるということ。不法行為ですから別口で費用請求出来ると思いますが、とりあえずの責任は信託財産が負うというわけです。

第1項では基本的に信託財産に責任がありますが、実際問題として信託財産が足りなくなるというケースが考えられます。そんな場合、もし何の特約も結んでいなかったりすると受託者自身の固有財産まで債務に対して責任を負うはめになります。なのでやはり受託者が身を守るには限定責任信託や責任財産限定特約なんかが必要になってくるわけです。



ちょっとメモ書き。信託法における受益債権がよく分かりません^^;。信託法第21条の第1項と第2項の両方に「受益債権」と書かれています。上述の通り、第1項は信託財産がまず責任を負い、第2項は信託財産のみが責任を負うとされています。もし受益債権を第2項に適用するなら、第1項の記述は不要なんじゃないでしょうか。ちなみに信託実務3級の問題集では第2項の扱いになっており、「受託者が受益者に対して負う受益債権にかかる給付債務」は信託財産のみが責任を負うとされています。第1項と第2項とで受益債権に違いがあるのだろうと思いますが、その違いがいったい何なのか……。もしご存知の方がいればご教示ください。

2013年5月13日月曜日

信託の登記又は登録(信託実務3級)

あるところにマンションを持ってるAさんがいました。Aさんはマンションを賃貸にして有効活用しようと、友人のBさんに信託することにしました。めんどうなことは全部Bさんに任せて、悠々自適な日々を過ごそうと思ったのです。その際、手間がかかりそうな信託の登記をするなんてことはしませんでした。しばらくはうまくいっていたのですが、Bさんが生来のギャンブル癖をいかん無く発揮し、あれよあれよと言う間に借金地獄。BさんはCさんに大金を借りていて、なんとAさんのマンションはCさんに差し押さえられてしまいました。さて、AさんはCさんに対し信託財産の所有権を主張することが出来るでしょうか。

できません。

そう、出来ないのです。投資信託における金銭のような通常の財産なら抗議出来ますが、不動産や特許権といった登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない信託法第十四条)ようです。

登記とはそもそも何ぞや。登記とは「権利関係などを公示するため法務局(登記所)に備える登記簿に記載すること、又は、その記載」(Wikipedia)とされています。だからAさんは「このマンションは俺のもんだ」と明示しなければならないのです。でもそれって変ですよね? だってマンションがAさんのものだというのは明らかな事実じゃないですか。それをいちいち登記しなければならないというのは不思議な感じがします。

信託法第二条において信託は「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること」と定義されています。ここで言う「管理」は信託財産を保存して、それを利用したり改良することです。不動産では「賃貸」「修繕」がそれにあたるでしょう。「処分」とは信託財産を移転したり変更、消滅させることで、不動産では「売払い」「物権の設定」といった話になります。なのでこうした行為をするにあたって、不動産の所有権を信託する場合にはまず委託者は受託者にその所有権を移転することになります。そして財産権は受託者が取得することになるのです。

これをこのままにしてしまうと、上記の例ではマンションはBさんの財産となっていて、差し押さえの対象となってしまいます。これではまずいので、Aさんは前もって「所有権の移転の登記」と「信託の登記」を行わなければなりません。特に「信託の登記」は前述の通り、信託法でしっかり定められているものなのです。

2013年5月6日月曜日

訴訟信託の禁止(信託実務3級)

信託法の第10条にこんな一文があります。「第十条  信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない」 いやいや、なんのこっちゃ。よく分からないので信託大好きおばちゃんのブログの解説を読んでみたところ、かなりいかがわしい話だということが分かりました。ブログから引用させてもらいます。

訴訟信託というのは、訴訟を目的とするような信託です。たとえば弁護士を受託者として、委託者が弁護士費用を信託するので、委託者の気に入らない奴のアラを探して受託者に訴えてもらいます。そして裁判で勝って、損害賠償金を巻き上げたら、ここから弁護士報酬を信託報酬?として差し引いて、残りは受益者=委託者に分配するというような、なんかあほみたいな信託です。

おばちゃん(?)の説明では喩えとして弁護士が設定されていますが、弁護士からすればそんな疑いをかけられるのはまっぴらなわけです。どうもこの法律が制定された時は、三百代言と呼ばれる連中を警戒していたようです。三百代言とは何か。弁護士のことを昔は代言人と呼んだそうです。三百代言と言った場合は正規の代言人(弁護士)ではなく、三百文で雇えるもぐりの代言人(弁護士)ということのようです。そこから、三百代言は弁護士を罵る言葉としても使われるようになりました。

法律家の間でも色々と見解があるみたいですが、基本的にはこの三百代言が騒動の中心です。慶応大学の岡伸浩さんによる「訴訟信託禁止の制度趣旨再考」の中で、法学者新堂幸司さんの論文が引用された箇所があり、端的に記されていました。

いわゆる三百代言の存在を前提に、三百代言による弊害を防止するため訴訟信託を禁止したとする見解である。三百代言による弊害防止とは、三百代言と呼ばれる者の活動によって、裁判の素人であり法的知識に乏しい当事者が不当に利益を搾取され、いわば喰い物にされることを防止することを意味する。訴訟信託は、三百代言が司法機関である裁判所を悪用して不当な利益を貪ることを防止するため禁止されるべきであり、この点に訴訟信託禁止の制度趣旨があるとするのである。沿革的に見て訴訟信託禁止の制度趣旨に関する最も根源的な理解であり、今日の学説にも大きな影響を及ぼしている。たとえば、近時の民事訴訟法学の基本書においても、「弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止は、主として、いわゆる三百代言が跳梁することを防止するにある。いかがわしい三百代言が依頼者の利益を十分に保護しなかったり、依頼者を喰い物にすることを防止し、司法運営の周辺を明朗化する目的をもつ。」といった説明がなされている。

とまあ、こんな具合な歴史的経緯があり、訴訟信託は禁止と信託法に定められることになったようです。ただし、信託財産の管理や処分のために必要な訴訟を受託者、つまり信託を受けた側が行うことは認められています。訴訟してはダメというのではなく、訴訟で儲けようという魂胆から信託を設定することがダメよという感じですね。

2013年5月5日日曜日

限定責任信託と責任財産限定特約の関係(信託実務3級)

試験の難易度は低いけれど内容の理解は難しい。信託実務3級はそんな試験なんだろうなと思います。限定責任信託と責任財産限定特約に関する問題を見て、そう感じました。2012年試験の第1問。僕が今持っている問題集の最初の問題に出てきた単語です。5つの文から正しいものを選ぶもので、以下のように書かれていました。

「限定責任信託とは、信託事務処理において受託者が信託債権者と責任財産限定特約を締結する信託をいう」

これが正しいか、それとも間違っているか。正解は“間違っている”です。簡潔に言えば限定責任信託においては責任財産限定特約を結ぶ必要が無いということ。限定責任とか責任財産限定というのは、ぶっちゃけ同じようなもんなのです。責任財産限定特約はもうちょっと通りのいい名称を使えば、ノンリコース条項のことです。 ノンリコースローンについてWikipediaの文章をまるっと引用してみます。

この貸付方法による場合、借り手は債務全額の返済責任を負わない。責任財産からのキャッシュフローのみを返済原資とすること、その範囲を超えての返済義務を負わないことから、原則として保証人を必要としない。
(中略)
この融資は、銀行にとっては従来のように融資先の全資産価値を担保とすることができず、当該投資の成否そのものを判断しなければならないことから、銀行の審査能力が直接に試されることとなる。また、リスクに見合ったプレミアムの設定、スキームの形成についての技術能力など、銀行に総合的かつ高度な能力が必要とされることとなる。


例えば銀行が会社にお金を貸して、そのお金の投資に関する部分からしかお金を返してもらえないということです。投資がうまくいかなくても、会社の持ってる土地とかの資産を差し押さえたりしてはいけないのです。では限定責任信託ってのはどういうものか。それは信託法の第216条と第217条に書かれています。

(限定責任信託の要件)
第二百十六条  限定責任信託は、信託行為においてそのすべての信託財産責任負担債務について受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の定めをし、第二百三十二条の定めるところにより登記をすることによって、限定責任信託としての効力を生ずる。

(固有財産に属する財産に対する強制執行等の制限)
第二百十七条  限定責任信託においては、信託財産責任負担債務(第二十一条第一項第八号に掲げる権利に係る債務を除く。)に係る債権に基づいて固有財産に属する財産に対し強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売又は国税滞納処分をすることはできない。 


まあ、だいたい責任財産限定特約(ノンリコース条項)と似たようなことが書かれていますね。でも、それだと一つの疑問が出てきます。同じような仕組みが二重で存在するのは無駄ではないかという疑問です。東大法学部の藤岡祐治さんが論説の中で以下のように述べていました。

(限定責任信託の)責任財産限定特約とのバランス
限定責任信託と異なり,当該信託債権以外は受託者の固有財産もその引当てになると考えられそうだが,21条2項4号における「信託債権」の範囲が問題となる。なぜなら,本号を広く解釈し,例えば信託債権を履行するに際して生じた不法行為債権がこの「信託債権」の範囲に含まれるとすると,限定責任信託とのバランスが悪くなるおそれがあるからである。すなわち,限定責任信託だと固有財産にかかっていけるものが,より簡易な責任財産限定特約を結ぶことにより,かかっていけなくなるという事態が妥当であるかということである。
(中略)
そのバランス上,原則としてその文言に忠実に,「信託債権」を広く解釈せず,少なくとも21条1項8号に該当しないものに限られると解すべきである。このように解すれば,限定責任信託とのアンバランスは生じないと考えられる。したがって,責任財産限定特約を結んだとしても,信託債権の履行に伴い生じる取引的不法行為や事実的不法行為は受託者の固有財産でも責任を負うこととなると考えられる。

つまり、 責任財産限定特約は限定責任信託を設定するよりも簡易で、その分適用範囲が狭まるということです。どちらを設定するかはケースバイケースで考えるべき、と理解しました。

他益信託とは何か(信託実務3級)

他益信託はその名の通り、自分以外の他者に信託による運用益を与える信託のことです。これに対して自分自身がその利益を受ける(受益者になる)信託を自益信託と言います。信託法には「他益」とか「自益」といった言葉はありませんが、第89条「受益者指定権等」らへんが絡んでくるのかなと思います。他益信託は面白くて、ある人のブログでは「自分で適切な財産管理ができない子供をお持ちの親が、自分の死後、子供の面倒を看てもらう為に使うことが出来ます」といった生々しい解説がされていました。つまり、遺産相続や生前贈与において、他益信託という仕組みが登場してくるわけです。

会計を勉強している人向けの話では、退職給付会計なんかでも他益信託が絡んできます。現在は確定給付型企業年金が最も知られていますが、その運用先として信託を設定することが出来ます。その信託がちゃんと退職給付に充てる他益信託ですよと限定することで、当該信託を退職給付会計上の年金資産として扱うことが出来るわけです。

「金銭の信託」と「金銭信託」の違い(信託実務3級)

僕は銀行員ではありませんが、銀行業務検定試験の一つである信託実務3級の取得を目指して勉強中です。銀行業務検定試験とは銀行員を中心として、金融に関わる人たちが受けるもので、代表的なものに税務や法務、財務なんかがあります。科目としては税務や財務が気になるところですが、何はともあれ信託実務です。と言うのも、僕が現在関わっているのが投資信託の販売システムだからです。投資信託については世間並みの知識しかありませんので、まずはとっつきやすそうなこの資格を受けようというわけです。

さて、掲題の「金銭の信託」ならびに「金銭信託」の話ですが、ややこしいことにこの二つは厳密には違う意味なのです。正直、ネーミングセンスを疑うレベルですが、昔の偉い人が考えたことですから仕方ありません。 「金銭信託」ともう一つ、「金外信託」というのがあって、まとめて「金銭の信託」と言います。このへん、どうも混乱を招くようで、マネー辞典というサイトではちょっと変な説明になっていました。

金外信託

信託会社が信託を引き受ける際に、金銭で受け入れ、信託終了時に元本と収益を金銭で返還する金銭信託の1つで、信託期間が終了したら財産を、株や債券など、運用している現物のままの状態で返還する信託のこと。一定期間財産の運用を委託する信託期間の終了時に、委託者(受益者)が信託財産を金銭で受取るものを金銭信託といい、株式などの現物で受取るものを金外信託という。

1行でしっかり矛盾してますね。金外信託を調べていて最初にここにたどり着いてしまった人は確実に混乱することでしょう。おそらくこれを書いた人は、書いたその時点で「金銭の信託」「金銭信託」「金外信託」といった言葉の区別がはっきり出来ていなかったのだと思います。マネー辞典よりも、一般社団法人信託協会による「信託の分類」解説が正確で分かりやすいです。そこから図を拝借してみました。

この図で言う「金銭信託以外の金銭の信託」というのが「金外信託」のことです。「金銭信託」と「金外信託」は別物だということが分かりますね。じゃあ「金銭の信託」って何かって言うと、そのままの意味で「金銭で受け入れる信託」です。「金銭信託」はさらに細かく分類して、「金銭で受け入れて、金銭で償還する(返す)信託」ということです。ちなみに「金外信託」は「金銭で受け入れて、株や債権等の資産を償還する(返す)信託」となります。