2012年8月30日木曜日

修正デュレーション

 債券トレードの世界では「修正デュレーション」と呼ばれる数値があります。これは何かというと、金利の動きから債券価格がどの程度動くかを調べるためのものです。例えばこの修正デュレーションが2だった場合のことを考えてみましょう。

 金利が2%上昇した場合 → 債券価格は約4下落

 金利が1%下落した場合 → 債券価格は約2上昇

 といった感じになります。こうした情報と、現在の債券価格、それから金利の動向を見極める(これが一番難しい)ことで債券を売ったり買ったりするのです。

 さて、この修正デュレーションはBloombergやReutersといった情報提供会社から取得できますが、自分で計算することももちろん可能です。修正デュレーションを導き出すには、まず債券の「現在価値」、そして「デュレーション」を計算する必要があります。

 現在価値とは何か。例えば手元の1万円を見てください。その1万円の現在価値は、もちろん1万円です。ではその1万円を年利1%で運用したら、1年後の将来価値はいくらになるでしょう。1万100円ですね。つまり現在価値というのは、将来手に入るお金から逆算して得られる価格ということなのです。

 では年利を1%として、将来1万円得られるチケットがあるとしましょう。そのチケットの現在価値はいくらになるでしょうか。

 10,000 / ( 1 + 0.01 ) = 9,900.9901

 つまり、およそ9,901円を年1%で運用したら、1年後には1万円の価値を持っているということです。

 デュレーションはこの現在価値を元に計算します。上記は簡単な例として1年だけの利回りで計算しましたが、債券は長いもので10年や20年を超えるものもあります。なのでもうちょっと計算はややこしくなります。

 例えば残存2年、クーポン(債券に付く利息のこと)2%、利回り(市場金利)1%の債券を想定してみましょう。債券の基準価格は100円と決まっていますが、これはそういうものと思ってください。

 2 / ( 1 + 0.01) = 1.9802

 まずこの計算で、最初の1年目に得られる金利分を計算します。

 102 / ( 1 + 0.01)^2 = 99.9902

 そして次の計算では最終的に償還される金額全てを計算しています。102となっているのは元本を含めるため。2乗しているのは、複利計算のためですね。

 1.9802 + 99.9902 = 101.9704

 上記の2式を足して、答えは101.9704となりました。これがこの債券の現在価値になります。ではこの価格で正しいか、ちょっと確認してみましょう。

 100 * (1.02)^2 = 104.04

 101.9704 * (1.01)^2 = 104.02

 上の式は債券を額面の価格で買った場合、最終的に得られる価格。下の式は先ほど計算した現在価値のお金を市場金利で運用した場合の価格です。ちょっと誤差が出てますが、ほぼ同じなことが確認できました。

 ところでデュレーションとは何でしょうか。一言で表すと「債券に投資された資金の平均回収期間」となりますが、ちょっと難しいですね。例えば5年後に償還される債券があったとしましょう。最後までその債券を持っていれば、実際に元が取れるのはきっかり5年です。でもクーポンでいくらか儲けていることを考えれば、5年経つ前の段階で投資した分のお金は返ってくると考えられますよね。なので平均回収期間は4.8とか、5よりも小さい数字になります。これがデュレーションです。

 では先ほど算出した債券の現在価値からデュレーションを導いてみましょう。

 (1.9802 + 99.9902 * 2) / 101.9704 = 1.9806

 こうしてデュレーションを導き出せました。そしてようやく、肝心の修正デュレーションの計算です。修正デュレーションの計算はそんなに難しくありません。デュレーションを ( 1 + 市場金利) で割るだけです。

 1.9806 / ( 1 + 0.01 ) = 1.9610

 これを最初に提示した例と合わせるとこうなります。

 金利が2%上昇した場合 → 債券価格は約3.922下落

 金利が1%下落した場合 → 債券価格は約1.961上昇

 ただし、現実の経済では修正デュレーションはそこまで正確に機能しません。金利の上昇幅が膨らむと、誤差がかなり大きくなってしまいます。なのでその誤差を修正する計算をしなくてはなりません。そのための数値がコンベクシティです。コンベクシティそのものの計算はかなり難しいようで、証券アナリストの教科書にも載っていませんでした。興味のある方は以下のリンク先をご参照ください。

http://en.wikipedia.org/wiki/Bond_convexity

プットオプションの売り戦略 並びにボラティリティについて

 報道によるとAIJが生み出した巨額の損失は、日経225プットオプションの売り戦略が失敗したためだと言う。友人のトレーダーはそんなものではなく、ストラクチャード・ファイナンス(仕組債)がやられたのだろうと言っているのですが、それについてはまた別途考えたいと思います。

 プットオプションとは、「売る権利」のことです。例えば日経225平均株価が10,000円だったとしましょう。この時、9,850円をストライクプライス(権利行使価格)とする、日経225のプットオプションについて考えてみます。日経225平均株価が10,000円の時点でこの権利を行使するとどうなるでしょうか。もちろん損します。権利を行使した場合、9,850円で日経225を売り、10,000円で買い戻すことになるからです。つまりプットオプションを行使するのは、ストライクプライスよりも原資産価格が低い時ということです。例えば日経225平均株価が9,700円にまで下がっていた場合、権利行使によって儲かります。

 オプション取引はデリバティブの一種ですが、買いではなく売りから始めることが出来ます。期限を決めて売り、もしくは買戻しすることで、単なるお金だけのやり取りに出来るからです。これを差金決済と言います。なのでプットオプションの売り、つまり「売る権利」を売ることが出来ます。分かりやすく言い換えると、(権利行使された場合)「買い戻す義務」を負うということになります。

 プットオプションを売る時に望むことは何でしょうか。それは買った相手が権利を行使しないで済むということです。上の例で言うと、日経225平均株価が9,850円を下回らないということです。そうするとプットオプションを売った側は、売った分の儲け(プレミア)だけが手に入ることになります。極端な話、価格が一切動かなければ、オプションを売り続けるだけで大儲け出来るというわけです。日経225のオプション取引は、売買単位が1,000倍なので、1円の儲けは1,000円の儲けです。

 こうした取引で一番怖いのは、突発的な株価の下落に耐えられないということです。ここ数年の間にもリーマン・ショックや東北の大震災が影響し、株価は大幅に下落しました。AIJはその間にもプットオプションの売り戦略を続けていたのです。株であればまた持ち直すということもありますが、オプション取引は時間的な制限があります。損失が確定してしまえば、それを取り戻すには別のトレードでしかありえません。

 価格の変動性のことをボラティリティと言います。このボラティリティが低い時期には、オプションの売り戦略、ボラティリティが高い時期にはオプションの買い戦略が有効です。ただし先述したように、突発的な下落や上昇に対応するのは困難です。うまく切り替えが出来たとしても、その瞬間の損失は必ず発生します。

 ボラティリティにはヒストリカル・ボラティリティ(HV)とインプライド・ボラティリティ(IV)の二種類があります。前者は過去のデータから算出したもの、直近の情報から算出したものという違いがあります。この二種類を使って、ボラティリティの今後を占うわけです。

 オプション取引に興味のある方は、ボラティリティが高まるのを待って、買い戦略を採ることをお勧めします。オプションの売りは超危険です。

2012年8月28日火曜日

シンガポール生活 Q&A

 友人からシンガポールの生活について色々と質問を受けた。せっかくなので、日記にしたためておく。1シンガポールドル = 65円で計算する。

1.大体日本人の給与水準?ってどんな感じなのだろうか?
 シンガポールで労働ビザを取得するためには様々な条件がある。給与もそのうちの一つで、2011年までは最低月給2,500SGD(162,500円)だったが、今年から上がって3,000SGD(195,000円)になった。この最低価格も新卒大学生を対象にしたものと言われており、実際は3,500SGD(227,500円)になると見込まれている。水準はまちまちだが、現地採用でそれなりの経験者であれば5,000SGD(325,000円)の水準はありうる。初任給は3,500SGD(227,500円)程度と思われる。

2.2bed roomくらいのコンドを借りて、ローカルフードメインにたまに日本食も食べつつ、家族を養っていくには月収どれくらい必要か。
 郊外のエリアであれば4,000SGD(260,000円)程度で2 bed room のコンドミニアムは借りられる。都心となると、5,000SGD(325,000円)以上は必要だと思われる。ローカルフードメインであれば食費に月々1,000SGDもあれば十分足りる。貯金も考えるなら、月々6,000SGD(390,000円)はあった方が良い。共働きであればそれほど労せずして達成出来る。

3.After5等はどんな活動をしているか(俺らの同年代の社会人)
 酒を飲みに行く、もしくはスポーツをする。僕は基本的に酒派。コンドミニアムに住んでいれば、プールやジムが付いているので、そこで活動するのがお手軽。テニスコートの付いているところもあり、友人を誘って楽しむも良し。土日はバーベキューなど、やはり集まって騒ぐ。ゴルフや釣りを趣味にしている人も多い。

4.日本の年金は払っている?
 止めてる。

5.貯金以外にどんな資産運用が可能か(シンガオリジナルの物とか?)。
 DBSに月々200SGD(13,000円)の定期預金を勧められた。日本の銀行よりはマシという程度の金利がつく。シンガポール人の入る年金があるらしいが、PR(永住権)を取れば入れるのかどうかは未確認。

6.求人エージェントの噂等(もし知っていれば、どのエージェントがよいとか悪いとか)
 噂ではなく実体験を。使ったのは三社。まずJAC。ここは最大手で、まずここに登録して色んな話を聞くべき。担当者によるかもしれないが、非常に親切という印象を持った。それからFARO。ここは小規模ながらもきめ細かい対応をしてくれる。最後にTEXSEAR。ここはクソ。

7.定年まで住み続けることについてはどう思うか?
 僕自身にそんなつもりは微塵もない。ダイナミックな印象を与える都市だが、同時に変わり映えしない印象がある。新しい建物がよく立つが、中身はいつものブランドショップ。退屈で仕方ない。

8.定年後に住み続けることについてはどう思うか?
 おすすめしない。金持ちになる前提であればおすすめする。シンガポールは貧乏な老人に厳しい国。

9.その他気をつけるべき事は。
 取り立てて気を付けるようなことはない。日本人としての節度を守っていれば、基本的に大きな問題は起こらない。ただ、日本にいると意識しないで済む若干のカルチャーショックは覚悟しなければならない。例えば中華系、マレー系の人間共にインド系の人間を見下す傾向がある。日本人は上位にいるためあまり意識しないで済むが、歴史的に人種差別が存在する。インド系の人間を「カリーン」と言うことがあるが、これは奴隷の鎖が鳴る音を意味する。もちろん禁句だ。シンガポールではイギリス人が中国人を使い、中国人がインド人に命令するという構造があった。これは奴隷の恨みを中国人に向かわせ、かつ中国人には比較的良い暮らしをさせるという植民地経営の基本だった。

 以上。その他質問あれば何でも受け付けます。

証券アナリスト試験におけるIFRS

 IFRSは「アイエフアールエス」とか「アイファース」「イファース(米国や英国ではこれが主流?)」って呼ぶのですが、ヨーロッパで生まれた会計基準のことです。正式にはInternational Financial Reporting Standardsで、日本語では国際財務報告基準と言います。一般だとひとつ前のIAS(International Accounting Standards)の和訳で、国際会計基準の方が広まってますね。IFRSのことを「国際会計基準」と言っても通じますし、日本国内であればそれでも問題なさそうだなと思います。

 IFRSは証券アナリストの試験においてもかなり重視されています。その理由は、証券アナリスト協会のレポートです。

投資家から見たIFRS」PDF
平成24年4月17日 公益社団法人日本証券アナリスト協会会長 稲野和利

 このレポートの中には「IFRSを支持する理由」という論点が出されていて、IFRSに対する注目度が高いことが伝わってきます。TACの証券アナリスト二次(企業分析)の教科書、第3章の会計制度は情報量が多い割に重要度がとても低いのです。項目としては「連結会計」「合併・買収」「会社分割」「外貨換算会計」「税効果会計」「デリバティブとヘッジ会計」「新株予約権」「退職給付会計」「米国基準とIFRS」と色々並んでいますが、そのほとんどが近年出題されていません。特に平成23年(2011年)の出題は「国際財務報告基準(IFRS)に準拠して作成された連結財務諸表」というもので、完全にIFRS寄りの内容となっています。レポートや試験の傾向から見るに、証券アナリスト協会がIFRSを重視しているのは間違いありません。

 ここで大事なのは、そもそもIFRSと日本の会計ってどんな違いがあるのか、ということでしょう。それ自体が膨大な情報ですから、たぶん異なる部分はかなり多いと思いますが、証券アナリストの教科書では4つのポイントに絞られています。

①IFRSでは固定資産の評価に“再評価モデル”を使ってもOK

 日本の基準だと、固定資産は“原価モデル”で計上されます。これは買った時の費用をそのまま載せるという手法です。でも時間が経って固定資産の価値が減ることもありますよね。そんな時はその分だけ減損会計を行うわけです。

 それに対して再評価モデルというのは、「再評価実施日における公正価値から、その後の減価償却累計額及びその後の減損損失類型学を控除した評価額で計上する方法」となります。要するに固定資産の価格が上がったり下がったりした場合は、それを使って帳簿記入しますよ、ということです。この再評価モデルは自由度が高く、任意で使えます。IFRSにおいても、日本基準と同じ原価モデルだけを使用することが出来ます。また、土地や建物だけ再評価モデルで、他の固定資産は原価モデルといった使い分けも可能みたいです。

 原価モデルでは損失のみ認められていましたが、再評価モデルでは価格が上がることも考慮され、損失と利益の両方が認められています。利益が出た場合の仕分け項目は「再評価剰余金」で資本に累積します。損失が出た場合は「損失(費用)」もしくは「再評価剰余金」の取り崩し(優先)となるのです。

②IFRSでは研究費と開発費は別腹です

 TACの教科書には「(日本基準では)研究費と開発費は、共に費用計上される」と書いてあります。ちょっと調べるとどうもこのへん、色々と議論の余地があるようで、危うく深みにはまるところでした(汗) そういうのはまた別の機会に勉強することとして、今は試験に集中しなければいけませんね。日本の基準では研究費と開発費はまとめて「研究開発費」です。上記のとおり、費用として計上されます。

 それに対してIFRSでは研究費と開発費が別々に存在します。まず研究費は発生した時点で費用確定。しかし開発費は「一定の要件を満たす」と資産に計上されるのです。その条件が何なのかは教科書に載っていませんでしたが、ここにざっと並べてご紹介しましょう。

・実用化できるだけの技術上の可能性がある
・実用化しようとする意図がある
・実用化する能力がある
・製品やサービスに対する一定規模の需要を見込んでいる
・営業体制や販売のノウハウがある
・実用化のための支出を合理的に把握して提示できる

 つまり、実際に製品化につながる開発であれば、資産として認めてもいいよってことなのです。ここが研究費と開発費を分けるポイントですね。研究費は実用化につながらないもの、開発費は実用化につながるもの、くらいアバウトに理解しておけば試験対策としては十分だろうと思います。

③リースは「経済的な実質」に沿って

 ここは教科書でも説明の少ないところで、それほど重要でもなさそうなのでさらっとだけ。日本基準では例えばフルペイアウトやノンキャンセラブルといった契約に「現在価値基準」や「経済的耐用年数基準」といった数値基準があります。IFRSではそうした基準を設けず「経済的な実質」を重視するとしています。実態としては各自基準を設けないと仕事にならないでしょうから、この部分が日本に与える影響はそれほど大きくないのかなという印象です。

④違いがあまり見えてこない「退職給付会計」

 TACの教科書では、日本基準だと遅延認識だけで、IFRSなら遅延認識でも即時認識でもOKみたいに書かれています。でも実際には日本基準でも即時認識が使えるようで、ちょっとよく分かりません。ちなみに遅延認識とは「数理計算上の差異」を一定の期間をかけて徐々に認識すること。対して即時認識というのは「数理計算上の差異」を即時認識することで、まあそのまんまの意味です。あと「数理計算」ってのは、例えば保険なんかで死亡率やら事故率やらを使って適正価格を引き出すとっても難しい計算の話。これの「差異」をどのタイミングでBSに載せますかという話です。

 退職給付会計において日本基準とIFRSとで決定的に違うのが、回廊方式の採用です。日本基準では採用されておらず、IFRSでは認められています。回廊方式とは「会計上の数理計算上の差異については、その額が上下一定範囲内でとどまっている間は費用処理を行わないとする方式」のこと。差異があっても許容範囲であれば放置する、遅延認識の一種です。しかし、ここまで細かい話が会計士ならまだしも証券アナリストで出るとは思えないなあ。


 こうした違いと、「包括利益」の概念について押さえておけば、IFRSはとりあえず対応できるんじゃないでしょうか。てか重要性で言えば上記の相違点なんかより、包括利益を理解することの方が先決かも。もしIFRSに興味を持って、試験対策以上に勉強したいという方がいたら、以下のサイトがおすすめです。読み物として面白い記事が揃っています。
IFRSフォーラム

2012年8月26日日曜日

2050年 シミュレーションと総合戦略(3)

「グローバルJAPAN -2050年 シミュレーションと総合戦略-」
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/120416.pdf

 2050年 シミュレーションと総合戦略、最後のまとめは「経済・産業」並びに「税・財政・社会保障」についてです。どちらも近年、ネットの議論を騒がせる大きな問題を含んでいます。一つはTPPへの参加について。ネットではTPP反対が非常に多く、様々な場面で議論されています。TPPによって日本の農業が破壊される、健康保険が潰される、郵貯の資金が吸い上げられる、等々。その多くはアメリカの陰謀という話にされていますが、当のアメリカではTPPがそれほど盛り上がっていないというのは皮肉なことです。それから消費税増税については実施の方向で記載されています。しかし消費税増税をそれだけで論じることはせず、税全体の改革について述べています。

■経済・産業(ビジネス)

 ドミノ効果と呼ばれる現象があります。これは「ある一国が共産主義化すれば、ドミノ倒しのように近隣諸国が次々と共産主義化」するという現象を言い、転じて「次々と連鎖的にある事件が起こる」ことを意味するようになりました。自由貿易圏の拡大についてもこのドミノ効果が当てはまると本資料は指摘します。
 このドミノ効果は、マイナスの方向にも働きます。そのことをもって日本はTPPに参加しないことで自由貿易圏から締め出されるマイナス効果が拡大し、交渉面において不利な立場となると言います。「バスに乗り遅れるな」ではちょっとイメージが良くないですが、そういった危機感があることは確かでしょう。
 勘違いしている人が多いのですが、このTPPはこれからのアジアの成長を取り込もうという意思で経済界は見ています。GDP比を理由に「これは対アメリカの協定だ」「日本はアメリカに騙されている」と論じた学者がいましたが、GDP成長率を無視しているのでナンセンスです。
 本資料における対アジア諸国への観点は以下の2点です。

①安価で多用な財・サービスを輸入し、日本人の生活を豊かにする。
②対外直接投資による「現地化」で、新興国の需要を取り込む。

 まず①について言えば、これはおそらく日本国内のデフレ(消費者物価指数の低下)を加速させるでしょう。その代わりに、日本人の生活水準は向上します。そして②が最も重要な部分で、企業の海外投資を加速させる狙いがあります。

 TPPやFTAなどの仕組みを推進しつつ、本資料ではIFRS(国際会計基準)についても少し言及しています。IFRSは欧州中心に進められた会計の標準化ですが、全世界的に導入を進めることが決められています。日本の会計基準との違いは多く、例えばIFRSにおいては「負ののれん」が認められていません。つまり商習慣に大きく影響するもので、TPPなんかよりも直接的なインパクトがあります。このIFRSについては「自国の利害と世界への調和を考慮しながら、柔軟に対処していくべき」とだけ結んでいます。本題ではないから仕方ないところではありますが、まだまだ混乱が続きそうな印象を受けました。

 潜在的な需要を掘り起こせば市場は拡大する、と若干楽観的な論調が含まれていますが、その内容自体に目新しさはありませんでした。「感性」「洗練性」「もてなし」といった綺麗な言葉が並びますが、どこか「違うな」という印象を持ちました。それよりも「システム」で稼ぐビジネスの方が具体性があり、イメージしやすく好感を持てます。例としては「新幹線の運行システム」「水道の運営機構」などが挙げられていますが、僕としては経済産業省のスマートソサエティ構想や、銀座や新宿といった都市ブランドの売り込みに注目したいところです。

■経済・産業(エネルギー)

 原発再稼働の議論が盛り上がっていますが、経済界の考えは「バランスのとれた電源ポートフォリオ」を作るべしというものです。ポートフォリオという言葉は耳慣れないかもしれませんが、要は色んなものを組み合わせたものという意味。

 現在、反原発運動が勢いを持っていますが、それによる国民負担の増加や安定供給への懸念が指摘されています。逆に過度な原子力への依存は「原発事故発生如何にかかわらず、バランスのとれた電源ポートフォリオの観点からは問題」であると指摘しています。どういうことかと言うと、例えば全てを火力発電に切り替えたことを考えてみましょう。まず資源調達時のリスクが増大します。特に日本は中東の石油資源に多くを頼っているので、紛争によって安定供給に支障をきたす可能性があります。もちろんそうした事態を避けるには、資源の輸入元を分散させるなど、対策が考えられます。ここで言いたいことは、リスクは分散させなければならないということです。

 本資料では原発について老朽化したものは「原則廃炉」というスタンスを取り、それを促進させるべきだと主張しています。

■税・財政・社会保障

 日本の国債を買い支えているのは日本の銀行ですが、それは別に日本国を守るためにやっているわけではありません。銀行からすれば、それが儲かるというだけのことです。ややこしいところですが、日本の国債は、日本の景気が停滞しているからこそきちんと吸収されているのです。企業としては投資需要が無ければ、資金は内部留保とするより他ありません。銀行の貸しはがしという苦い経験もあり、いざと言う時のために貯めておきたいという欲求もあります。そして貯め込んだ資金は、銀行が運用します。例えば国債の利回りを2%、銀行の預金利回りを1%だとしましょう。そうすると銀行は差分の1%を労せずして得ることが出来るのです。これは資金が投資ではなく貯蓄に多く回っているため可能となります。

 そうした状況の中で、日本の基礎的財政収支は1993年以降延々と赤字体質。2020年までにプライマリー・バランスを黒字化しなければならないとしています。しかしその財政健全化は単に経済成長すればどうにかなるものではないと本資料は主張しています。財政の抜本的な見直しを求め、経済成長を促進する税制を構築しなければならないと言います。たまに政治家が「消費税増税で経済成長」などと言って世間の顰蹙を買っていますが、あれは単なる言葉足らず、もしくは中途半端な聞きかじりによる勘違いです。本来の意図は税制全体の改革であり、消費税はその一部に過ぎません。

 消費税増税を主張しつつも、所得格差の是正には不向きであると認めています。なので同時に所得税には「給付付き税額控除」を導入することで再分配機能を強化すべきとしています。そしてグローバル化に対応するため法人税を下げるべしと言います。この点は少し難しいところで、大企業は一部優遇税制が取られているため、日本の法人税がそれほど高くないという指摘があります。僕としては会社規模や設立年数などを勘案した柔軟な法人税を取り入れるべきではないかと思っています。

 所得格差を表す代表的な数値はジニ係数です。よく民主党は「小泉改革によって格差が広がった」と言いますが、小泉改革の時期はここ数年で唯一、ジニ係数の上昇率が下がっていました。(それでも上昇はしていますが、長期的な傾向で小泉改革がどうという問題ではありません) 平気でデマを流す民主党は日本にとって非常に迷惑な存在ということが分かると思います。


 また、ジニ係数は世代別に見ると、高齢者世帯で顕著となっています。高齢者は貯蓄を切り崩す側なので、これは仕方ありません。つまり少子高齢化によってジニ係数が引き上げられている可能性が高く、単純に格差社会だとは言い切れません。もちろん格差それ自体は存在しており、その対策は必要です。上記で触れた「給付付き税額控除」の導入のため、本資料ではマイナンバー法案の成立を期待しています。

 こうした仕組みを整えるために、地方分権の推進、そしてそのための広域行政体の必要性を主張しています。


 かなりはしょった部分もあり、かつ僕個人の意見も交えたものですが、これで本資料のまとめを完了といたします。長々と付き合ってくださった方に感謝。

2050年 シミュレーションと総合戦略(1)
2050年 シミュレーションと総合戦略(2)
2050年 シミュレーションと総合戦略(3)

2050年 シミュレーションと総合戦略(2)

「グローバルJAPAN -2050年 シミュレーションと総合戦略-」
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/120416.pdf

 前回の日記に続いて今回は肝心の「提言」についてまとめます。論点は大きく分けて四つ。「人材」「経済・産業」「税・財政・社会保障」「外交・安全保障」です。その中の「外交・安全保障」については僕の日記では触れないこととします。と言うのも、本資料における「外交・安全保障」は、結局のところ「経済・産業」の絡みで達成される秩序を中心に据えて論じられているからです。ゆえに「経済・産業」についての考え方を知っておけば、事足りると判断しました。

「人材」「経済・産業」「税・財政・社会保障」「外交・安全保障」という順序に、本資料の思想が透けて見えます。つまり第一に考えるべきは人材。この精神が最も重要なのです。人材あってこその経済発展、産業振興。さらに「税」「財政」「社会保障」などと三つに分けず、「税・財政・社会保障」一体で論じている点が素晴らしい。世の新聞やそれに群がるコメンテーターたちは各論にばかり終始するきらいがあります。税のみを論じ、消費税増税に賛成だの反対だの言っているようでは、議論がまったく深まりません。その点において本資料は優れている、いえ普通だと言えるでしょう。そして経済をより良いものにすることが、外交力を高め、安全保障を築いていく。これこそが本資料の骨子であり、思想なのです。

■人材

 人材における重要なポイントは二つです。まずは、足りなくなる労働力をいかに確保するか。それとこれからの人材をどのように育てるか。当たり前のことですが、何か一つやれば全てがうまくいく、といったようなお花畑の議論は存在しません。これは僕個人として繰り返し言いたいことですが、一つのことだけを見てああでもないこうでもないと騒ぐのはナンセンスです。

 まず労働力確保の視点では、三種類の労働者が考えられます。それは女性、老人、外国人です。特に女性の労働力確保については、シミュレーションシナリオの一つに組み込まれており、重視されています。「女性の労働力確保のシナリオを設定しても、女性が働きやすい環境が出来ていないのだから無駄だ」と本資料を批判する意見を見かけましたが、当然ながら本資料においても環境づくりは重視されています。女性の労働力を増やすべく、オランダの「短時間正社員」制度を参考にすべきというのが目立った主張です。これは雇用者の希望で短時間とフルタイムを選択できる仕組みであり、パートよりも女性の社会進出のために効果的な仕組みだと思われます。加えて従来言われてきている保育支援、男性の育児・介護休暇取得支援についてコメントされています。

 老人の労働力を活用すべきという点については、あまり具体的に論じられてはいませんでした。定年の時期を産業界が伸ばせばいいと単純に考えているのかもしれません。それから多くの人が心配している外国人受け入れについては「受け入れ基準の透明化」を急ぐべきだという意見があります。これは確かにその通りで、外国人を受け入れるにしても実際どういう人間が来るのかが重要です。保守派の反発は外国人犯罪者の増加、ならびに日本人の雇用を奪うという部分が中心です。であればその反発を和らげるレベルの基準が必要です。

 これからの人材をどのように育てるか。その前に、そもそも産業界はどのような人材を欲しているかが示されています。就職活動をする学生には是非知ってもらいたい内容です。

①イノベーションを生み出す「個性」と「異端」の資質を備えていること
②消費者の感動や笑顔を生む「感性」を持つこと
③「柔軟な発想」と「自ら考える力」、そして「強い心(タフネス)」を持つこと

 これら三つをバランスよく養っていくことが人材の育成で最も重要なことだと考えられます。これを踏まえて、グローバルな人材についても、単に語学力があればいいというわけではないことを論じています。グローバル人材に必要なのは「論理力」「伝える力」「広い視野」「許容力」であると言います。ちなみに僕がこの中で最も必要だろうと思うのは「伝える力」です。これが無いと、他者とのコミュニケーションが成り立ちません。

 本資料では、若者は決して「内向き志向」ではなく、留学者数は過去に比べて増加しているという点を正しく押さえています。マスコミは不安を煽りたいのか若者批判をしたいのか、「留学者数が減っている」「若者は内向き志向だ」と繰り返していますが、データに基づかないただの嘘です。過去のデータから将来を見る際には人の見方が大きく影響しますが、過去のデータそのものの分析において本資料は大きく間違っていないと思います。

 人材育成の最後に学校教育についても言及しています。本資料では「教育のあり方を一部の教育専門家に任せるのではなく、様々な利害関係者(親、産業界、塾産業など)の切実な声が反映される仕組みを作るべき」とし、教育というものを幅広く見るべきだとしています。


 次回は最後。「提言」の内の、「経済・産業」「税・財政・社会保障」についてまとめます。

2050年 シミュレーションと総合戦略(1)
2050年 シミュレーションと総合戦略(2)
2050年 シミュレーションと総合戦略(3)

2050年 シミュレーションと総合戦略(1)

「グローバルJAPAN -2050年 シミュレーションと総合戦略-」
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/120416.pdf

 21世紀政策研究所の報告書「グローバルJAPAN -2050年 シミュレーションと総合戦略-」を読了しました。日本の経済、社会について考える上では必読の書と言っても過言ではないでしょう。本資料の中心は「提言」であり、単なる「分析」ではありません。分析を通して今後の展望を切り開く、重要な示唆に富んだ資料です。

 まずこのシミュレーションには欠陥があるという前提を話しておきます。それは日本のシナリオが他国に連動していないということです。日本においては「生産性が先進国並みに上昇」「現状維持」「財政悪化による成長率下振れ」「労働力改善(女性や老人の活用)」の四つのシナリオを想定しています。そして海外では「新興国悲観(新興国が経済を先進国型に移行できない)」「欧州悲観(財政危機からの脱却が出来ない)」といったシナリオが組み込まれています。とは言えこれらは有機的に反応することもなく、独立的に検討されています。またそれ以外にも為替の動きを購買力平価で予想するなど、現実の動きとは解離した情報で予想を立てています。ただし、こうした欠陥それ自体を批判することはそれほど重要ではありません。そもそも2050年の予測であり、ある程度おおざっぱになってしまうのは当たり前のことです。要はどの程度のブレを許容出来るかということ。遠くを目指して旅するとき、おおまかな方向さえ合っていればいいのと同じことです。

 おおまかな方向で良い、とは言えこれはさすがに変じゃないかと思う部分も出てきます。例えば、韓国とフィンランドの異常な飛躍です。

 
 これは日本経済が「現状維持」となった場合における、一人当たりGDPの動きです。日本はだいたい横ばいのままとなっており、その周囲で変動が起きています。その中で韓国とフィンランドの伸びが異常に目立っているのです。これはどういうことなんでしょうか。
 本資料から読み取れる情報では、韓国の伸びはおそらくアジアにおける競争力の高さを要因としているものと思われます。資料全体を通して、これからはアジアの世紀となることが強調されています。人口増加のメリットを発揮し、中国だけでなく、インドやインドネシアなどが勢力を伸ばす見込みです。その上で東南アジアでマーケットのシェアを高めることに先んじた韓国企業は、アジアの成長による恩恵を大いに受けるものと思われます。
 ただし、韓国は無視出来ない問題をいくつも抱えています。北朝鮮や韓国企業のダンピング問題。さらに日本よりも急速な高齢化問題(日本の方が先ですが、伸び率は非常に高いのです)。そうした影響を一切考慮から除外し、よほどの幸運に恵まれての飛躍としか思えません。それとフィンランドについての情報は一切ありませんでした。これほどの伸び率を記載しながら、何の説明も無いのは不自然な気さえします。僕はこの研究報告書を日本経済の指標として価値あるものと思いますが、世界経済の見通しとしては雑すぎると感じます。

 日本財政シミュレーションは非常にシンプルな計算で書かれているため、説得力があります。まずシミュレーションには現在の政府方針を土台とします。①「2015年度までに消費税率を10%に段階的に引き上げる」、②「2020年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化、その後の債務残高をGDP比で安定的に引き下げる」ことです。
 例えば単純に消費税率を10%にし、収支そのままに過ごしていたとしても、財政の悪化は止まりません。

 2050年時点での政府債務残高は対GDP比594.6%。ここにたどり着く前に間違いなく破綻するでしょう。現在と同水準を保つには2016年度以降10年間にわたり毎年GDP比1%の収支改善が必要。これは要するに、2016年から2026年にかけて、毎年5兆円の収支改善をしなければダメだということです。
 財政健全化には消費税増税と収支改善が必須。これが本資料の基本スタンスです。そこに加えて外国からの投資を呼び込むことが、一つの狙いとされています。

 次回は本資料の中核でもある、「提言」の内容についてまとめていきたいと思います。

2050年 シミュレーションと総合戦略(1)
2050年 シミュレーションと総合戦略(2)
2050年 シミュレーションと総合戦略(3)

2012年8月12日日曜日

誰が名付けた「ころがし計算法」

2014/2/27 update
なんとGoogleで「ころがし計算法」を調べると当ブログ記事がTOPに出ていました。これが今後も継続されるかは分かりませんが、大勢の方が「ころがし計算法」の由来について気になっているということかと思います。

「ころがし計算法」と名付けたのが誰なのかは分かりませんが、これはおそらく英語の「Rollforward」を日本語に訳したものだと思います。 特に固定費調整のころがし計算法を「Fixed Asset Rollforward」と言います。最初は「のれん」のように日本特有の表現かと思ったのですが、単なる日本語訳のようでちょっと残念です。ちなみに投資運用の世界やデータベース管理の世界では「ロール・フォワード」と言う風にカタカナ読みです。また、複利計算のことを「ころがし計算法」とも言います。様々な場面で利用される「ころがし計算法」ですが、その意図するところは共通です。ある一時点を区切りとし、それを元にして次の時点を計算すること。それが「Rollforward」、つまり「ころがし計算法」なのです。

デリバティブ投資では、期近物を売って期先物を買うことをロール・フォワードと言います。デリバティブは期限が決まっているので、ほっとくとポジションが無くなってしまいます。しかしパッシブ運用を行っている場合はポジションを維持することが必要なので、期限が先のものに買い替えることが必要になるわけです。

データベースにおけるロール・フォワードとは、障害対応方法の一種です。「データベースに障害が発生したときに、記録してあるチェックポイントのデータを再現した上で、ログファイルに残っているチェックポイント後の処理を再現し、障害直前の状態にまで戻すこと」を言います。(e-Words

簿記のころがし計算法についてはこちらのブログ記事がおすすめです。
ゆるぼき「絶対分かる ころがし計算法

さすがに「Rollforward」の由来までは探れませんでした^^; 英語でもその単語と「Origin」とかで検索すると、ラテン語とか出てくるんですけどね。これ以上は言語学者者さんに任せておきましょう。


(以下元記事。改めて読むと、なんかズレてる気がする(汗))
企業が次年度の利益計画を立てる際に、どのくらいの原価で、どのくらいの利益が出ているか、知りたいところですね。その方法には全部原価計算と直接原価計算の二つがあります。全部原価計算では、原価計算に最初から変動費と固定費の両方を利用します。それに対して直接原価計算ではまず変動費のみに注目して原価計算を行います。

これを説明し始めると長いので、ここでは割愛します。大事なことは以下の2点です。
・全部原価計算だと固定費が邪魔をして変動費の利益計画を立てにくい
・直接原価計算だと利益計画を立てやすくなるが本来の営業利益が算出されない

つまり管理会計の視点に立てば直接原価計算の方が有用だけれど、財務会計からすれば数値が正確ではないということになるわけです。そこで考え出されたのが「固定費調整」です。その名の通り、直接原価計算でズレた固定費の部分を後から調整してあげようということ。その方法は二つあります。ひとつが「ころがし計算法(原則)」、そしてもうひとつが「一括調整法(簡便的な計算)」です。正確な数値を出すには「ころがし計算法」でなければなりません。以下はこの「ころがし計算法」について考察してみます。

簡単な図を挿入してみました。これが「ころがし計算法」です。どことなく転がっているように見えなくもない……。これの使い方はいたってシンプル。まず直接原価計算で算出した営業利益がありますよね。そこに月末の数値(合計)を加算し、そこから月初の数値(合計)を減算すれば良いのです。そうすると全部原価計算で算出したのと同じ額の営業利益を出すことが出来ます。

ところで「ころがし計算法」の由来についてですが、ネットで調べても「これだ」という情報は見つかりませんでした。どうも「俗に」使われていた表現らしく、明確な由来は存在しないような感じです。「ころがす」という言葉を調べるうちに気付いたのですが、これには「積み上げる」「加算する」といった意味が込められているようです。例えばあまり良い例ではありませんが、「土地ころがし」という言葉があります。これは土地の転売によって利益を得ることで、バブル景気の際にはよく行われる稼ぎ方です。日本に限らず、世界のどこでも行われていますね。これより良い例に、江崎グリコ創業者、江崎利一の言葉で「下から石を一つずつ積み上げて山頂に達するより、山頂から石を転がした方が早い」というのがあります。これの真意は置いといて、「転がし」に「積み上げ」と同じ効果があることを表していますね。

ころがし計算法って、なんか名前が可愛らしいので、けっこう覚えやすいんじゃないでしょうか(笑)

2012年8月11日土曜日

キャッシュ・フロー計算書をしっかり理解するために 支払配当金の取り扱い

黒字倒産」という言葉があります。これは損益計算書では利益が出ていて問題ないように見えるのに、実際の現金が無くて経費等の支払いが出来ずに倒産してしまう現象のことです。それじゃいかんということで使われるのが、キャッシュ・フロー計算書。名前の通り、現金がどのくらいあるかを示す財務諸表です。将来の収益を予測する上でも、キャッシュ・フロー計算書はかなり重要になってきます。このキャッシュ・フロー計算書は大きく3つの項目に分けて表示されます。

(1)営業活動によるキャッシュ・フロー
(2)投資活動によるキャッシュ・フロー
(3)財務活動によるキャッシュ・フロー

会計に慣れてない人にとっては「なんのこっちゃ」ですね。もうちょっと分かりやすく表現してみます。

(1)本業で出入りするお金の流れ
(2)お金を貸したり、機材を購入したりすることで生まれるお金の流れ
(3)お金を借りてくることで生まれるお金の流れ

とまあ、こんな感じなんですが、初学者が必ず「?」となる部分があります。それは利息と配当金の扱いです。実は二種類の方法が「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」に定められているのですが、簿記1級ではそのうちの一つだけを取り上げています。

利息及び配当金の表示区分としては、次の二つの方法が考えられるが、継続適用を条件として、これらの方法の選択適用を認めることとする。 

○ 損益の算定に含まれる受取利息、受取配当金及び支払利息は「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に、損益の算定に含まれない支払配当金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法(簿記1級の範囲!)

○ 投資活動の成果である受取利息及び受取配当金は「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に、財務活動上のコストである支払利息及び支払配当金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法

ここでは簿記1級の話だけを取り上げましょう。受取利息、受取配当金、支払利息は「営業活動」に入るのに、支払配当金だけは「財務活動」に振り分けられてしまってます。どうしてこんな違いが生まれるのでしょうか。それを見るため、この四つの仕訳を確認します。


お分かりでしょうか。実は「支払配当金」という勘定はありません。上記で示したように、まず株主総会の決議により「未払配当金(未払金)」が計上されます。そして支払いのタイミングが来れば消去される。この違いを端的に言うと、「受取利息、受取配当金、支払利息は当期純利益の構成要素」だけれど「支払配当金は当期純利益の構成要素ではない」となります。

こっからは僕の感覚の話ですが、会社は誰のものかというところを意識すれば違いが分かるんじゃないかなと思います。支払配当金って言うとマイナス要素みたく感じますが、これは株主に払うお金なんです。色んな意見があるのはさて置き、会計の世界では会社は株主のものです。だから支払配当金ってのは何のことは無い、株主のお金を会社から財布に移動したに過ぎないわけです。それに対して受取利息、受取配当金、支払利息の三つは会社の外側とお金のやり取りが発生しています。ここが支払配当金を「営業活動」に含めない決定的な違いなんじゃないでしょうか。

外貨建財務諸表項目まとめ

海外に支店や子会社を置いている場合、決算時には為替相場に従って円換算する必要があります。為替相場と言っても細かく分ければ色々見方があり、例えばトレードをする人であれば直近1ヶ月の平均為替相場なんてのも気にして見ているものです。もちろん簿記1級でそこまで細かく知る必要はありません。大事なのは3つです。決算時相場(CR:Current Rate)、発生時相場(HR:Historical Rate)、期中平均相場(AR:Average Rate) この3つの相場を使って、海外支店、海外子会社の財務諸表を円換算するのです。

簿記1級では、「在外支店の財務諸表項目」および「在外子会社等の財務諸表項目」が試験の対象となっています。この二つの違いを見比べることで、理解を深め、記憶を定着させることが試験対策の近道だと思います。

①換算方法のおおまかな考え方

在外支店の換算方法は「本国主義」、在外子会社の換算方法は「現地主義」という風に表現されています。本国主義というのは、日本本社の基準に整合性を合わせるようにすること。それに対して現地主義では、海外での独立した会計が尊重されるのです。

②貸借対照表の違い

貸借対照表で使うのは、CRかHRのいずれかです。ARは使いません。そして基本的にはCRを使って換算するので、逆にどこに対してHRを使うのかを把握していれば良いことになります。なので以下はHRの部分について見ていきます。

まず共通する部分として、在外支店の「本店」勘定、在外子会社の「資本金」勘定。これらはHRで換算します。親会社の持つ資本にダイレクトに入ってくるものなので、日々の為替変動に影響されると余計な混乱を生んでしまうのでしょう。

逆に建物や備品の扱いでは、在外支店と在外子会社に違いが現れます。在外支店の場合は本国主義、要するに支店で購入した備品なども本店が購入したものとみなされるので、最初の購入価格を簿価とします。なので為替変動に左右されないHRを使って換算しなければなりません。それに対して在外子会社は現地主義。在外子会社が購入した備品は本社から切り離して考えるので、CRを使って換算することになります。その際に発生する減価償却累計額も同様です。

棚卸資産については注意して見なければなりません。在外子会社であれば単純にCRを使って換算すればOKです。しかし在外支店の場合、低価基準によってCRかHRのいずれを使うかを決めることになります。具体的には、「原価(簿価)×HR」と「時価×CR」のどちらか価額の低い方を選ぶという手順になります。また「時価×CR」の方が低い場合は、 「原価(簿価)×HR」-「時価×CR」で評価損を計上しなければなりません。

③損益計算書の違い

在外子会社の損益計算書は、ARまたはCRのどちらを使っても構いません。原則はARで、CRは容認されています。在外子会社の損益計算書で唯一気を付けなければならないのが、親会社への売上(仕入)です。ここに関しては連結の絡みもあり、HR(親会社が換算に用いる為替相場)を使わなければなりません。

それに対して在外支店の損益計算書は、基本的に全てHRで換算します。「その他の収益および費用」勘定についてのみ、ARを使うことが例外的に認められています。また商品評価損はそのまま換算するのではなく、貸借対照表のところで計算した数値( 「原価(簿価)×HR」-「時価×CR」)を利用するところにも注意です。